高浜虚子
寒雨降りもの皆枯るゝ庭の面
老いてゆく炬燵にありし或日のこと
この辺に時雨のあとの少しあり
時雨るゝや四台静かに人力車
手で顔を撫づれば鼻の冷たさよ
短日の出発前の小句会
顔見世にさそはれてゐてせはしくて
冬空は澄み老眼は曇り
大の字に子は挟つて居る枯木
庭のもの急ぎ枯るるを見てゐたり
冬山に両三歩かけ引返し
主漸く焚火煙に現れし
潮じみて暈ね著したり海女衣
だぶだぶの足袋を好みてはきにけり
庭にあり皆外套の襟たてて
霜除をとりし牡丹のうひうひし
夜廻りの終りの柝の二つ急
松立ちし妹が門辺を見て過ぎぬ