卯月野の見るものに城の遠霞
まがたらの葉につつみたるお餅かな
柏なき国まがたらの葉の餅
少年の目にまがたらの五月かな
まがたらの葉摘に笊を一つづつ
まがたらの葉むしる子等や神ながら
紀三井寺楠若葉を右方に
虫つきし薔薇をのぞける夫婦かな
子守子の白粉つけて薔薇の園
麦畑くすぶり色に熟れにけり
青山のふもとに麦の小家かな
熾んなる麦の秋かな大石見
麦穂よりこぼれ移りし蝶一つ
大松の林の中や麦を搗く
麦笛や岸の真昼の繋ぎ舟
麦笛を吹く子径に現はれし
麦笛を吹く子に雲の美しき
麦笛の子等並び来る穂麦かな
麦笛の子に大阪の霞かな
月影や門の小溝の杜若
梅雨晴や藺田を培ふ女一人
梅雨晴や藺田のほとりの女学校
御像やお乳のあたりの梅雨明り
梅雨闇やお乳のあたりの御木目
この干潟一面の蟹と申すべし