和歌と俳句

原 石鼎

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葉柄のなんぞ朱さや若楓

梅雨入とぞおもひて庭に下りにけり

梅雨入月見はやせ窓の宵のほど

閉めし戸のうちがはみゆれ梅雨ともし

梅雨夜とは月のましたに啼く蛙

梅雨晴れんと好日夕の雲間より

青空を秘めつ覆ひつ梅雨の雲

われと同じ心に梅雨を来られけり

暮れくれて終に星出ぬ梅雨夕べ

送梅雨けむりのごとく雲はしる

梅雨入夜の葛餅うすき色にかな

うすあかねして夕雲や梅雨の果

梅雨の闇しづかにありて深きかな

梅雨風に梅樹の青葉散るばかり

梅雨の芽に真紅もありし梧桐かな

梅雨ひととき大靄のたつ夕かな

梅雨の夜や玻璃戸にうつる眼の光

梅雨あがるある夜の窓の懐しき

一本の白髪尊し梅雨夜妻

一疋の鮎あぶり梅雨の山家かな

鉄骨をうつ音のする梅雨入かな

梅雨凝つて雨ちらちらと葉の面に

さみどりに梅雨筍のほそぼそと

蝕みて全き葉まれに梅雨ひと木

木賊にも若葉はありぬ梅雨長し