日野草城
sでに生れ颱風北へ北へ来る
颱風のゐる天気図を怖れけり
颱風来ラヂオは真夜も言てゐる
秋の風濡れしせなかに触れて去る
なづさへば湯はひとはだのごとやさし
秋の夜やさざなみ消えし湯のおもて
すこしある熱のしたしさ秋の夜
秋深し指すんなりと微熱の手
秋の灯にいささか伸びて白き爪
身辺に妻あり子あり秋夜病む
世に生きてほそきこの手の支ふるもの
たくぶすま白き衾を被て火照る
顔の膚ひやりと秋の灯消たり
御山富士ツバメの窓に現れたるぞ
巨き富士窓に満ちたり駛る窓に
富士の顔雲にかくろひ雲照らふ
皚き富士超快速の窓をいざる
次の窓に移りて富士はいやうるはし