春昼や古人のごとく雲を見る 普羅
海中の潟むらさきに春の昼 誓子
同じ字を砂に書きつつ春の昼 誓子
熱の身の覚めてかなしき春の昼 波津女
みあかしを消すに音あり春の昼 槐太
春の昼坂も焦土として下る 誓子
春昼の焦土の繁華知人なし 誓子
春昼の睡きポストに文託す 鷹女
春の昼樹液したたり地を濡らす 三鬼
寝足りねば吾のみじめに春の昼 誓子
春昼の墓こゑもなし手鏡に 波郷
鳶の舞春昼の熱昇りをり 波郷
春昼の指とどまれば琴も止む 節子
琴弾きしかひなしびれぬ春の昼 節子
春昼の交響楽を溢れしむ 草城
春昼や漁夫は職場の沖にゐて 波津女
髭の口乳児の頬吸ふ春の昼 誓子
言絶えしまま春昼のとどこほる 節子
春昼や老木の幹の苔じめり 万太郎
東京の春昼かかるときしもや 万太郎
春の昼字を見る眼鏡むしりとり 誓子
春昼の卓に給仕のいのち舞ひ 龍太
未見なりし友来て親し春の昼 草城
回る木馬一頭赤し春の昼 三鬼
春昼といふ大いなる空虚の中 風生
春昼の巌やしたたり絞りだし 三鬼
春昼のあくびうつりて彼が今 立子
春昼やふとうつろなる草の庵 風生
春昼や栓撥ねて鳴る魔法壜 不死男
春の昼化石の中に羽ひろぐ 静塔
春のひる窯火のほかは消え失せて 静塔
音楽ただよふ仰臥世界の春の昼 林火