和歌と俳句

万葉集

巻第一

  幸讃岐國安益郡之時軍王見山作歌
霞立 長春日乃 晩家流 和豆肝之良受  村肝乃 心乎痛見 奴要子鳥 卜歎居者  珠手次 懸乃宜久 遠神 吾大王乃  行幸能 山越風乃 獨座 吾衣手尓  朝夕尓 還比奴礼婆 大夫登 念有我母  草枕 客尓之有者 思遣 鶴寸乎白土  網能浦之 海處女等之 焼塩乃 念曾所焼 吾下情

  反歌
山越乃 風乎時自見 寐夜不落 家在妹乎 懸而小竹櫃

讃岐の国の安益の郡にいでます時に、軍王が山を見て作る歌
霞立つ 長き春日の 暮れにける わづきも知らず むらきもの 心を痛み ぬえこ鳥 うら泣き居れば たまたすき 懸けのよろしく 遠つ神 我が大王の 行幸の 山越す風の ひとり居る 吾が衣手に 朝夕に 還へらひぬれば ますらをと 思へる我も 草枕 旅にしあれば 思ひ遣る たづきを知らに 網の浦の 海人娘子らが 焼く塩の 思ひぞ焼くる 吾が下心

  反歌
山越しの風をときじみ寝る夜おちず家にある妹を懸けて偲ひつ

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