和歌と俳句

万葉集

巻第三

挽歌

<< 戻る |巻第四 >>

     悲傷死妻高橋朝臣作歌一首 并短歌
白細之 袖指可倍弖 靡寐 吾黒髪乃 真白髪尓 成極 新世尓 共将有跡 玉緒乃 不絶射妹跡 結而石  事者不果 思有之 心者不遂 白妙之 手本矣別 丹杵火尓之 家従裳出而 緑兒乃 哭乎毛置而  朝霧 髣髴為乍 山代乃 相樂山乃 山際 徃過奴礼婆 将云為便 将為便不知  吾妹子跡 左宿之妻屋尓 朝庭 出立偲 夕尓波 入居嘆會 腋挾 兒乃泣毎  雄自毛能 負見抱見 朝鳥之 啼耳哭管 雖戀 効矣無跡 辞不問 物尓波在跡  吾妹子之 入尓之山乎 因鹿跡叙念

     死にし妻を悲しびて 高橋朝臣が作る歌一首 并せて短歌
しろたへの 袖さしかへて 靡き寝し 吾が黒髪の ま白髪に なりなむ極み 新世に 共に有らむと 玉の緒の 絶えじい妹と 結びてし  ことは果たさず 思へりし 心は遂げず 白妙の たもとを別れ にきびにし 家ゆも出でて みどりこの 哭くをも置きて  朝霧の おほになりつつ 山しろの 相楽が山の 山のまに 往き過ぎぬれば 云はむすべ 為むすべしらに  わぎもこと さ寝し妻屋に あしたには 出で立ち偲び ゆふべには いりゐ嘆かひ わきばさむ 児の泣くごとに  をとこじもの 負ひみ抱きみ 朝鳥の ねのみ哭きつつ 恋ふれども しるしをなみと こと問はぬ ものにはあれど  わぎもこが 入りにし山を よすかとぞおもふ

     反歌
打背見乃 世之事尓在者 外尓見之 山矣耶今者 因香跡思波牟

うつせみの 世の事にあれば よそに見し 山をや今は よすかと思はむ

朝鳥之 啼耳鳴六 吾妹子尓 今亦更 逢因矣無
      右三首七月廿日高橋朝臣作歌也 名字未審 但云奉膳之男子焉

あさとりの ねのみしなかむ わぎもこに いままたさらに あふよしをなみ

<< 戻る |