主遠く吠ゆる犬あり汐干潟
汐干潟音して流る水もあり
蚕室をつゞき出でたる二三人
赤々と風さかのぼる枝椿
椿落ちて花粉浮き出ぬ潦
巣燕の隣合ひ居て仲あしき
芽菖蒲や歩めば動く水にして
鹿の尻あしびがくれに何時までも
あしびより出したる鹿の首長し
くろきものあしびがくれの鹿なりし
こちに来る鹿やあしびの花つけて
梅の渓見下ろす茶屋の手摺哉
石一つ抛げし谺や山桜
畔薊ぬぎ揃へある草履かな
蓑しひて憩ひ煙草や畔薊
蒲公英や一座一座の花盛り
春雪を掻いては捨つる紙屋川
せゝらぎの三段ばかり春の月
石一つ抜けしあとあり草萌ゆる
薪割れる木屑とび来し春の泥
春の泥椿の幹にしたゝかに
水口を祭る種々蓑のうち
籾俵浸けある見つゝ急ぎ足
海空につゞきて蒼き胡蝶かな
紅梅や高みより見ゆ門の内