長谷川かな女
梅の幹旱につよく零余子忌
応召兵なつの朝日に粛然と
寛政の色をのこしぬ花菖蒲
花菖蒲大淀と咲く濃紫
兵送る旗に茎上ぐ花蓮
峡の月冷たく梅の実りゐる
枇杷実る大海の轟くところにて
夏寒く耳をとられし湯渓かな
渓音に夏帯結びこらへけり
底湯の灯近くうつれり夏の谿
滝を見る平氏の寺の書院かな
山百合を押し立てゝ出し湯郷かな
六月の木曾駒ケ嶽箱庭に
茅の輪くゞりて今年も守れる命かな
紅紙のわが形代に息を吹く
青かぼちや梅雨退屈に煮られけり
水に搏たれて白き緋鯉の泳ぎけり
蠅打つや山人越後縮着て
迷恨と鳴く蛙ゐて夏枯草
川宿の青柚にざぶと水音あり