高浜虚子
風多き小諸の春は住み憂かり
鍬を借り畑作りや春来る
雪解の庭ここもとにたまり水
雪解や人たづね来る五六人
四方の戸のがたがた鳴りて雪解風
雪解水林へだてて二流れ
枝垂梅一枝を蔓のからみたる
目薄くなりて故郷の梅に住む
紅梅や旅人我になつかしく
春雷や傘を借りたる野路の家
音高き春の野水に歩をとどめ
耕牛の谷を隔てて高く居る
耕の鍬かたげつつ訪ひよりぬ
古城趾といふ石崖のさいたづま
蓼科に春の雲動きをり
里人は皆畑に居り桃の花
木蓮を折りかつぎ来る山がへり
我が作る田はこれこれと春の風
城壁にもたれて花見疲れかな
山国の蝶を荒しと思はずや
梭のごと蝶ぬけとべる瓜の垣
春潮にたとひ櫓櫂は重くとも