和歌と俳句

久保田万太郎

正月や震災まへのまゝの寺

元日やうすく置きたる庭の霜

わかくさのいろも添へたり切山椒

つゝましく羽織著なせる春著かな

初日記何ごとも世ははるかなり

ふりかけて雪すぐやみし二日かな

旅さきの消息とゞく三日かな

老の箸しづかに薺粥啜る

初場所やわすれは措かず信夫山

めでたさは、まづ、まゆ玉のしだれより

まゆ玉やあはれ一人のものおもひ

まゆ玉やつもるうき世の塵かるく

松納格子のうちのはや灯る

うぐひすのことしまだ来ず小正月

小豆粥身貧にうまれつきしかな

元日の句の龍之介なつかしき

元日の梅ほころびし二三輪

墓原の元日しまのひかりかな

輪飾や夢の間すぎし三ヶ日

読初や読まねばばらぬものばかり