和歌と俳句

久保田万太郎

ふりしきる雪のあかるさ切山椒

暮からの風邪まだぬけず切山椒

初場所やひかへ力士のくみし腕

常盤山文庫の年のはじめかな

身の老いにかなふさむさや切山椒

輪かざりやすでに三日の隙間風

輪かざりにきこゆるピアノラヂオかな

双六の賽の禍福のまろぶかな

獅子舞の太鼓松風ぐもりかな

まゆ玉をうつせる昼の鏡かな

まゆ玉のさそへる梅の香なりけり

まゆ玉に畳ほのめく青さかな

羽子板のばれんみだるゝ纏かな

羽子板の佐七の喧嘩かぶりかな

獅子舞やちやらけはちまき太鼓方

あの役者この役者なし初芝居

まゆ玉や一度こじれし夫婦仲

元日や露地のおくにて崖の下

明神のあまざけ下げて年賀かな

まゆ玉に猫のおとろへあはれなり