和歌と俳句

久保田万太郎

茶屋へ行くわたりの雪や初芝居

やぶ入やおよそ悲しき女親

大空や松過ぎの星凍てつくし

初空の下梅ばやし中にあり

ふりいでし雪の中なり松飾

大露地の羽子つくなかを抜け来り

掘割をまへの門なる松飾

輪飾に海の日の来てあたりけり

輪飾や夢の間惜しき三ヶ日

とりいでてかけし春著の襷かな

泣蟲は泣かねばすまぬ春著かな

雪の傘さしつれいづる春著かな

初鴉燗つきすぐてゐたりけり

つゝましく春著の膝をそろへけり

かりそめの襷かけたる春著かな

双六を拡げて淋し賽一つ

初髪や芸子島田に結ひならひ

初髪を結ひをり雪のふつてをり

帯あげの朱あふるゝや松の内

木の撥のこのかたくなや松の内

日帰りの旅いそがしや松の内