和歌と俳句

久保田万太郎

去年の月のこせる空のくらさかな

”長命寺さくらもち”より賀状かな

芋坂の団子下げたる賀客かな

雪さそふものとこそ聞け手毬唄

手毬唄哀しかなしきゆゑに世に

蘆垣に日のさしぬける二日かな

めでたさは初湯まづわきすぎしかな

羽子の音やすでに三日のらんびやうし

はつあかりさしくる波のよせによせ

年玉のならびてをかし草の宿

年玉の大きな凧のとゞきけり

年玉の手拭の染め匂ひけり

年玉の襟一とかけや袂より

年玉の包みに雪のかゝりけり

はや松のとれし湯本の夕かな

あらたまの春のマスクや楽屋入

元日や動物園の裏で坂

輪かざりにさすが楽屋の行儀かな

福引のみづひかかけしビールかな

貯水池に朝日きらめく二日かな

三日さておもhもうけぬ雪となり

七草やはやつねの日のしもしづく

初場所にとゞきし梅のたよりかな

初場所やかの伊之助の白き髯