和歌と俳句

菖蒲

千載集・雑歌 道因法師
けふかくるたもとに根ざせあやめ草うきはわが身にありと知らずや

俊成
みくり這ふ入江に生ふるあやめ草ひくひとなしに根や流るらむ

西行
西にのみ心ぞかかるあやめ草この世はかりの宿と思へば

西行
みな人の心のうきはあやめ草西に思ひの引かぬなりけり

西行
世の憂きに引かるる人はあやめ草心の根なき心地こそすれ

定家
橘の花ちる風にあらねども吹くにはかをるあやめぐさかな

定家
夏ごろもたもとのみかはあやめ草心にさへぞ今日はかかれる

俊成
おくやまの谷のうきぬのあやめ草ひくひとなしに根や流るらむ

俊成
おしなべて葺かぬ宿なきあやめ草いかでよどのにさのみひくらむ

俊成
みくりくる筑摩の沼のあやめ草引けどつきせね根こそありけれ

定家
風ふけば夢の枕にあはすなりしげき菖蒲の軒のにほひを

定家
手なれつつ すずむいはゐの あやめ草 けふはまくらに またや結ばむ

定家
たま水の 軒もしどろの あやめ草 さみだれながら あくるいくかぞ

定家
さ月きぬ軒のあやめのかげそへて待ちしいつかと匂ふ池水

実朝
五月雨に水まさるらしあやめ草うれ葉かくれてかる人のなき

定家
若くよりひく人なくてしをれこし身に似ぬ池のあやめ草かな

定家
いつかとぞまちし沼江のあやめ草けふこそながきためしにはひけ

新勅撰集 前関白道家
ふかき江に けふあらはるる あやめ草 としのをながき ためしにぞひく

新勅撰集 入道前太政大臣公経
いくちよと いはがきぬまの あやめぐさ ながきためしに けふやひかれん

定家
明くるより今日ひくあやめ池水におのが五月ぞなれて別るる