鳴かん声や 散りぬる花の 名残なる やがて待たるる ほととぎすかな
春暮れて 声に花咲く ほととぎす 尋ぬることも 待つも変らぬ
聞かで待つ 人思ひ知れ ほととぎす 聞きても人は なほぞ待つめる
所から 聞きがたきかと ほととぎす 里を変へとも 待たんとぞ思ふ
初声を 聞きてののちは ほととぎす まつも心の 頼もしきかな
さみだれの 晴れ間尋ねて ほととぎす 雲井に伝ふ 声聞ゆなり
ほととぎす なべて聞くには 似ざりけり 古き山辺の 暁の声
ほととぎす 深き山辺に 住むかひは 梢に続く 声を聞くかな
夜の床を 泣き浮さなん ほととぎす 物思ふ袖を 問ひに来らば
ほととぎす 月の傾く 山の端に 出でつる声の 帰り入るかな
伊勢島や 月の光の さひか浦は 明石には似ぬ 影ぞ澄みける
池水に 底清く澄む 月影は 波に氷を 敷きわたすかな
月を見て 明石の浦を 出る舟は 波のよるとや 思はざるらん
離れたる 白良の浜の 沖の石を 砕かで洗ふ 月の白波
思ひとけば 千里の影も 数ならず 至らぬ隈も 月にあらせじ
大方の 秋をば月に 包ませて 吹ほころばす 風の音かな
何事か この世に経たる 思ひ出を 問へかし人に 月を教へん
思ひ知るを 世には隈なき 影ならず わが目に曇る 月の光は
憂き世とも 思ひ通さじ おしかへし 月の澄みける 久方の空
月の夜や 友とをなりて いづくにも 人知らざらん 住みか教へよ