和歌と俳句

西行

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信楽の 杣のおほぢは とどめてよ 初雪降りぬ むこの山人

急がずは 雪にわが身や とめられて 山辺の里に 春を待たまし

あはれ知りて 誰か分け来ん 山里の 雪降り埋む 庭の夕暮

湊川 苫に雪葺く 友舟は むやひつつこそ 夜を明しけれ

筏士の 波の沈むと 見えつるは 雪を積みつつ 下るなりけり

溜りをる 梢の雪の 春ならば 山里いかに もてなされまし

大原は 芹生を雪の 道に開けて 四方には人も 通はざりけり

晴れやらで 二村山に 立つ雲は 比良の吹雪の なごりなりけり

雪しのぐ 庵のつまを 挿し添へて 跡とめて来ん 人をとどめん

くやしくも 雪の深山へ 分け入らで ふもとにのみも 年を積みける

古き妹が 園に植ゑたる 唐薺 誰なづさへと 生し立つらん

紅の よそなる色は 知られねば 筆にこそまづ 染め始めつれ

さまざまの 嘆きを身には 積みおきて いつしめるべき 思ひなるらん

君をいかで 細かに結へる 滋目結ひ 立ちも離れず 並びつつ見ん

恋すとも みさをに人に いはればや 身に従はぬ 心やはある

思ひ出でよ 御津の浜松 よそ立つと 志賀の浦波 立たん袂を

疎くなる 人は心の 変るとも われとは人に 心おかれじ

月を憂しと ながめながらも 思ふかな その夜ばかりの 影とやは見し

我はただ 返さでを着ん 小夜衣 着て寝しことを 思ひ出でつつ

川風に 千鳥鳴きけん 冬の夜は わが思ひにて ありける物を