和歌と俳句

西行

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とりのこし 思ひもかけぬ 露払ひ あなくらたかの われが心や

君に染む 心の色の 深さには にほひもさらに 見えぬなりけり

さもこそは 人目思はず なりはてて あなさまにくの 袖の雫や

かつすすぐ 沢の小芹の 根を白み 清げに物を 思はずもがな

いかさまに 思ひ続けて 恨みまし ひとへにつらき 君ならなくに

恨みても 慰めてまし 中々に つらくて人の 逢はぬと思へば

打絶えで 君に逢ふ人 いかなれや わが身もおなじ 世にこそは経れ

とにかくに いとはまほしき 世なれども 君が住むにも 引かれぬるかな

何事に つけてか世をば いとはまし 憂かりし人ぞ けふはうれしき

逢ふと見し その夜の夢の 覚めであれな 長き眠りは 憂かるべけれど

よしさらば 光なくとも 玉といひて 言葉の塵は 君磨かなん

松山の 波に流れて 来し舟の やがて空しく なりにけるかな

松山の 波の気色は 変らじを 形なく君は なりましにけり

よしや君 昔の玉の 床とても かからん後は 何にかはせん

曇りなき 山にて海の 月見れば 島ぞ氷の 絶え間なりける

今よりは いとはじ命 あればこそ かかる住まひの あはれをも知れ

久に経て わが後の世を 問へよ松 跡偲ぶべき 人もなき身ぞ

ここをまた われ住み憂くて うかれなば 松はひとりに ならんとすらん