和歌と俳句

西行

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絶えたりし 君が御幸を 待ちつけて 神いかばかり うれしかるらん

いにしへの 松の下枝を 洗ひけん 波を心に 懸けてこそ見れ

紫の 色なきころの 野辺なれや 片祭にて 懸けぬ葵は

神の世も 変りにけりと 見ゆるかな そのことわざの あらずなるにも

御手洗の 流れはいつも 変らじを 末にしなれば あさましの世や

榊葉に 心を懸けん ゆふしでて 思へば神も 仏なりけり

君住まぬ 御内は荒れて 有栖川 忌む姿をも 映しつるかな

いつかまた 斎の宮の いつかれて 標の御内に 塵を払はん

かかる世に 影も変らず 澄む月を 見るわが身さへ 恨めしかかな

言の葉の なさけ絶えにし 折節に あり逢ふ身こそ かなしかりけれ

世の中を そむく便りや なからまし 憂き折節に 君逢はずして

あさましや いかなるゆゑの 報いにて かかることしも ある世なるらん

永らへて つひに住むべき 都かは この世はよしや とてもかくても

まぼろしの 夢をうつつに 見る人は 目も合せでや 世を明かすらん

その日より 落つる涙を 形見にて 思ひ忘るる 時も間もなし

山深み 杖にすがりて 入る人の 心の奥の 恥かしきかな

花ならぬ 言の葉なれど おのづから 色もあるやと 君拾はなん