和歌と俳句

西行

18 19 20 21 22 23 24 25 26 27

いかにぞや 言ひやりたりし 方もなく 物を思ひて 過るころかな

わればかり 物思ふ人や 又もあると もろこしまでも 尋てしがな

君にわれ いかばかりなる 契りありて まなくも物を おもひそめけん

さらぬだに もとの思ひの 絶えぬ身に 嘆きを人の 添ふるなりけり

我のみぞ わが心をば いとほしむ あはれぶ人の なきにつけても

恨じと 思ふ我さへ つらきかな 問はで過ぬる 心強さを

いつとなき 思ひは富士の けぶりにて 打臥す床や 浮島が原

これもみな 昔のことと いひながら など物思ふ 契りなりけん

などかわれ つらき人ゆゑ 物を思ふ 契りをしもは 結びおきけん

紅に あらぬ袂の 濃き色は こがれて物を 思ふ涙か

堰きかねて さはとて流す 滝つ瀬に 湧く白玉は 涙なりけり

嘆かじと 包みしころの 涙だに うちまかせたる 心地やはせし

今はわれ 恋せん人にを 訪はん 世に憂きことと 思ひ知られぬ

ながめこそ 憂き身の癖に なりはてて 夕暮ならぬ 折もわかれね

思へども 思ふかひこそ なかりけれ 思も知らぬ 人を思へば

綾ひねる ささめの小蓑 衣に着ん 涙の雨もしのぎがてらに

なぞもかく こと新しく 人の問ふ わが物思ふ 古りにし物を

死なばやと 何思ふらん 後の世も 恋は世に憂き こととこそ聞け

わりなしや いつを思ひの はてにして 月日を送る わが身なるらん

いとほしや さらに心の 幼びて 魂切れらるる 恋もするかな