秋を惜しむ袖のしぐれの今日はまた今年も冬のけしきなるかな
ふるさとのもとあらの小萩枯れしより鹿だになかぬ庭の月かな
霜さゆる刈田の原に居る雁の棲家むなしき冬のあけぼの
若草のつまもあらはに霜枯れて誰にしのばむ武蔵野の原
神無月木の葉吹きおろす明け方の峰のあらしに残る月影
秋の色はおのがこかげに残りけり四方のあらしを松にのこして
照らす日を覚へる雲の暗きこそ憂き身にはれぬ時雨なりけれ
時雨こし外山もいまは霰ふり正木のかづら散りや果てぬる
住吉の松のしづえを洗ふなみ氷らぬ聲ぞいとど寒けき
明石潟うらこぐからに友ちどり朝霧隠れ聲かはすなり
風をいたみ波にただよふ鳰鳥の浮巣ながらに氷ゐにけり
難波潟あしのしをれば氷りとぢ月さへ寒し鴛のひとこゑ
山人の汲む谷川のあさぼらけ叩く氷も且つ結びつつ
山おろしの吹きそふままに雪おちて軒端のほかに靡く白雲
我が宿の芒おしなひ降る雪に籬の野邊の道ぞ絶えぬる
旅人の身の白ころも打ち拂ひ吹雪をわたる雲のかけはし
このごろの小野の里人いとまなみ炭焼くけぶり山にたなびく
霜やたび置きにけらしな神垣や三室の山に採れる榊葉
ひととせを眺め果てつる山の端に雪消えなばと花や待つらむ
窓のうちにあかつき近き灯し火の今年のかげは残るともなし