和歌と俳句

万葉集

巻第一

  近江大津宮御宇天皇代 天命開別天皇諡曰天智天皇

  近江の大津の宮に天の下知らしめす天皇の代 天命開別天皇、諡して天智天皇といふ

   天皇詔内大臣藤原朝臣 競憐春山万花之艶 秋山千葉之彩時 額田王以歌判之歌
冬木成 春去来者  不喧有之 鳥毛来鳴奴 不開有之 花毛佐家礼杼  山乎茂 入而毛不取 草深 執手母不見  秋山乃 木葉乎見而者 黄葉乎婆 取而曾思努布  青乎者 置而曾歎久 曾許之恨之 秋山吾者

   天皇、内大臣藤原朝臣に詔して、春山の万花の艶と秋山千葉の彩とを競ひ憐れびしめたまふ時に、額田王が歌をもちて判る歌
冬こもり 春さり来れば  鳴かずありし 鳥も来鳴きぬ 咲かずありし 花も咲けれど 山を茂み 入りても取らず 草深み 取りも見ず  秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてぞ偲ふ  青きをば 置きてぞ嘆く そこし恨めし 秋山我は

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