石川女郎贈大伴宿禰田主歌一首
即佐保大納言大伴卿之第二子母曰巨勢朝臣也
遊士跡吾者聞流乎屋戸不借吾乎還利於曽能風流士
石川郎女 大伴宿禰田主に贈る歌一首 すなはち佐保大納言卿の第二子母を巨勢朝臣といふ
みやびをと我は聞けるをやど貸さず我を帰せりおそのみやびを
大伴宿禰田主報贈歌一首
遊士尓吾者有家里屋戸不借令還吾曽風流士者有
大伴宿禰田主 報へ贈る歌一首
みやびをに我はありけりやど貸さず帰しし我そみやびをにはある
同石川女郎更贈大伴田主中郎歌一首
吾聞之耳尓好似葦若末乃足痛吾勢勤多扶倍思
同じき石川女郎 更に大伴田主仲郎に贈る歌一首
我聞きし耳によく似る葦のうれの足ひく我が背つとめたぶべし
大津皇子宮侍石川女郎贈大伴宿禰宿奈麻呂歌一首
女郎字曰山田郎女也 宿奈麻呂宿禰者大納言兼大将軍卿之第三子也
古之嫗尓為而也如此許戀尓将沈如手童兒
一云戀乎大尓忍金手武多和良波乃如
大津皇子の宮の侍石川郎女 大伴宿禰奈麻呂に贈る歌一首
古りにし嫗にしてやかくばかり恋に沈まむ手童のごと
一云 恋をだに忍びかねてむ手童のごと
長皇子与皇弟御歌一首
丹生乃河瀬者不渡而由久遊久登戀痛吾弟乞通来祢
長皇子 皇弟に与る歌一首
丹生の川瀬は渡らずてゆくゆくと恋痛し我が背いで通ひ来ね