弓削皇子思紀皇女御歌四首
弓削皇子 紀皇女を思ふ御歌四首
芳野河逝瀬之早見須臾毛不通事無有巨勢濃香問
吉野川行く瀬の早みしましくも淀むことなくありこせぬかも
吾妹兒尓戀乍不有者秋芽之咲而散去流花尓有猿尾
我妹子に恋ひつつあらずは秋萩の咲きて散りぬる花にあらましを
暮去者塩満来奈武住吉乃淺鹿乃浦尓玉藻苅手名
夕さらば潮満ち来なむ住吉の浅香の浦に玉藻刈りてな
大船之泊流登麻里能絶多日二物念痩奴人能兒故尓
大舟の泊つる泊りのたゆたひに物思ひ痩せぬ人の児ゆゑに
三方沙弥娶園臣生羽女未経幾時臥病作歌三首
三方沙弥、園臣生羽が女を娶りて幾時も経ねば、病に臥して作る歌三首
多氣婆奴礼多香根者長寸妹之髪比来不見尓掻入津良武香 三方沙弥
たけばぬれたかねば長き妹が髪このころ見ぬに掻き入れつらむか
人皆者今波長跡多計登雖言君之見師髪乱有等母 娘子
人皆は今は長しとたけと言へど君が見し髪乱れたりとも
橘之蔭履路乃八衢尓物乎曽念妹尓不相而 三方沙弥
橘の影踏む道の八衢に物をそ思ふ妹に逢はずして