和歌と俳句

万葉集

巻第二

   但馬皇女在高市皇子宮時思 穂積皇子御作歌一首 
秋田之穂向之所縁異所縁君尓因奈名事痛有登母

但馬皇女、高市皇子の宮に在す時に、穂積皇子を偲ひて作らす歌一首 
秋の田の穂向きの寄れる片寄りに君に寄りなな言痛くありとも

   勅穂積皇子遣近江志賀山寺時 但馬皇女御作歌一首 
遺居而戀管不有者追及武道之阿廻尓標結吾勢

穂積皇子に勅して近江の志賀の山寺に遣はす時に、但馬皇女の作らす歌一首 
後れ居て恋ふつつあらずは追ひ及かむ道の隈廻に標結へ我が背

   但馬皇女在高市皇子宮時 竊接穂積皇子事既形而御作歌一首 
人事乎繁美許知痛美己世尓未渡朝川渡

但馬皇女、高市皇子の宮に在す時に、竊かに穂積皇子に接ひ事既に形はれて作らす歌一首 
人言を繁み言痛みおのが世にいまだ渡らぬ朝川渡る


   舎人皇子御歌一首 
大夫哉片戀将為跡嘆友鬼乃益卜雄尚戀二家里

   舎人皇子の御歌一首 
ますらをや片恋ひせむと嘆けども醜のますらをなほ恋ひにけり

   舎人娘子奉和歌一首 
嘆管大夫之戀礼許曽吾髪結乃漬而奴礼計礼

   舎人娘子、和へ奉る歌一首 
嘆きつつますらをのこの恋ふれこそ我が結ふ髪の漬ちてぬれけれ

<< 戻る | 次へ >>