和歌と俳句

万葉集

巻第二

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   但馬皇女薨後穂積皇子冬日雪落遥望御墓悲傷流涕御作歌一首

但馬皇女の薨ぜし後に、穂積皇子、冬の日に雪の降るに御墓を遥望し悲傷流涕して作らす歌一首

零雪者安播尓勿落吉隠之猪養乃岡之寒有巻尓

降る雪はあはにな降りそ吉隠の猪養の岡の寒からまくに

   弓削皇子薨時置始東人作歌一首并短歌

弓削皇子の薨ぜし時に、置始東人が作る歌一首并せて短歌

安見知之 吾王 高光 日之皇子  久堅乃 天宮尓 神随 神等座者  其乎霜 文尓恐美 晝波毛 日之盡  夜羽毛 夜之盡 臥居雖嘆 飽不足香裳

やすみしし 我が大君 高光る 日の皇子  ひさかたの 天つ宮に 神ながら 神といませば  そこをしも あやに恐み 昼はも 日のことごと  夜はも 夜のことごと 臥し居嘆けど 飽き足らぬかも

   反歌一首

王者神西座者天雲之五百重之下尓隠賜奴

大君は神にしませば天雲の五百重の下に隠りたまひぬ

   叉短歌一首

神樂浪之志賀左射礼浪敷布尓常丹跡君之所念有計類

楽浪の志賀さざれ波しくしくに常にと君が思ほせりける