弓削皇子遊吉野時御歌一首
瀧上之三船乃山尓居雲乃常将有等和我不念久尓
滝の上の三船の山に居る雲の常にあらむと我が思はなくに
春日王奉和歌一首
王者千歳二麻佐武白雲毛三船乃山尓絶日安良米也
大君は千年に座さむ白雲も三船の山に絶ゆる日あらめや
或本歌一首
三吉野之御船乃山尓立雲之常将在跡我思莫苦二
右一首柿本朝臣人麻呂之歌集出
み吉野の三船の山に立つ雲の常にあらむと我が思はなくに
右の一首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。
長田王被遣筑紫渡水嶋之時歌二首
長田王、筑紫に遣はさえて、水嶋に渡る時の歌二首
如聞真貴久奇母神左備居賀許礼能水嶋
聞きしごとまこと尊くくすしくも神さびをるかこれの水嶋
葦北乃野坂乃浦従船出為而水嶋尓将去浪立莫勤
芦北の野坂の浦ゆ船出して水嶋に行かむ波立つなゆめ
石川大夫和歌一首
奥浪邊波雖立和我世子我三船乃登麻里瀾立目八方
沖つ波辺波とも我が背子が御船の泊り波立ためやも
又長田王作歌一首
隼人乃薩麻乃迫門乎雲居奈須遠毛吾者今日見鶴鴨
隼人の薩摩の瀬戸を雲居なす遠くも我れは今日見つるかも