和歌と俳句

万葉集

巻第三

<< 戻る | 次へ >>

   山部宿禰赤人歌六首

縄浦従背向尓所見奥嶋榜廻舟者釣為良下

縄の浦そがひに見ゆる沖つ嶋漕ぎ廻る舟は釣しすらしも

武庫浦乎榜轉小舟粟嶋矣背尓見乍乏小舟

武庫の浦を漕ぎ廻る小舟粟嶋をそがひに見つつともしき小舟

阿倍乃嶋宇乃住石尓依浪間無比来日本師所念

阿倍の嶋鵜の住む磯に寄する浪間なくこのころ大和し思ほゆ

塩干去者玉藻苅蔵家妹之濱嚢乞者何矣示

潮干なば玉藻刈りつめ家の妹が濱づと乞はば何を示さむ

秋風乃寒朝開乎佐農能岡将超公尓衣借益矣

秋風の寒き朝けを佐農の岡越ゆらむ君に衣かさましを

美沙居石轉尓生名乗藻乃名者告志弖余親者知友

みさご居る磯廻に生ふるなのりその名は告らしてよ親は知るとも

   或本歌曰
美沙居荒磯尓生名乗藻乃吉名者告世父母者知友

みさご居る荒磯に生ふるなのりそのよし名は告らせ親は知るとも