和歌と俳句

万葉集

巻第三

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沙弥満誓歌一首 
世間乎何物尓将譬旦開榜去師船之跡無如

世の中を何に譬へむ朝開き漕ぎ去にし船の跡なきがごと

若湯座王歌一首 
葦邊波鶴之哭鳴而湖風寒吹良武津乎能埼羽毛

葦辺には鶴がね鳴きて港風寒く吹くらむ津乎の崎はも

釈通観歌一首 
見吉野之高城乃山尓白雲者行憚而棚引所見

み吉野の高城山に白雲は行きはばかりてたなびけり見ゆ

日置少老歌一首 
縄乃浦尓塩焼火氣夕去者行過不得而山尓棚引

縄の浦に塩焼く煙夕されば行き過ぎかねて山にたなびく

生石村主真人歌一首 
大汝小彦名乃将座志都乃石室者幾代将経

大汝少彦名のいましけむ志都の石室は幾代経ぬらむ

上古麻呂歌一首 
今日可聞明日香河乃夕不離川津鳴瀬之清有良武

今日もかも明日香の川の夕さらずかはづ鳴く瀬のさやけくあるらむ