和歌と俳句

万葉集

巻第四

相聞

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     京職藤原大夫贈大伴郎女歌三首 卿諱曰麻呂也
嫺嬬等之 珠篋有 玉櫛乃 神家武毛 妹尓阿波受有者

     京職藤原大夫が大伴郎女に贈る歌三首
をとめらが たまくしげなる 玉櫛の 神さびけむも 妹にあはずあれば

好渡 人者年母 有云乎 何時間曽毛 吾戀尓来

よく渡る 人は年にも ありといふを いつの間にぞも 吾恋にける

蒸被 奈胡也我下丹 雖臥 与妹不宿者 肌之寒霜

むしぶすま なごやが下に 臥せれども 妹としねねば 肌し寒しも

     大伴郎女和歌四首
狭穂河乃 小石踐渡 夜干玉之 黒馬之来夜者 年尓母有粳

さほがはの いしふみ渡り ぬばたまの 黒馬来る夜は 年にもあらぬか

千鳥鳴 佐保乃河瀬之 小浪 止時毛無 吾戀者

千鳥鳴く 佐保の河瀬の さざれ浪 やむ時もなし 吾が恋ふらくは

将来云毛 不来時有乎 不来云乎 将来常者不待 不来云物乎

来むと云ふも 来ぬ時あるを 来じと云ふを 来むとは待たじ 来じと云ふものを

千鳥鳴 佐保乃河門乃 瀬乎廣弥 打橋渡須 奈我来跡念者

千鳥鳴く 佐保の河門の 瀬を広み 打橋渡す 汝が来とおもへば

右郎女者佐保大納言卿之女也 初嫁一品穂積皇子 被寵無儔而皇子薨之後時 藤原麻呂大夫娉之郎女焉 郎女家於坂上里 仍族氏号曰坂上郎女也

     又大伴坂上郎女歌一首
佐保河乃 涯之官能 少歴木莫苅焉 在乍毛 張之来者 立隠金

佐保河の 岸のつかさの 柴な刈りそね ありつつも 春し来たらば 立ち隠るがね

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