和歌と俳句

万葉集

巻第四

相聞

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     神龜元年甲子冬十月幸紀伊國之時為贈従駕人所誂娘子作歌一首 并短歌 笠朝臣金村
天皇之 行幸乃随意 物部乃 八十伴雄与 出去之 愛夫者  天翔哉 軽路従 玉田次 畝火乎見管 麻裳吉 木道尓入立  真土山 越良武公者 黄葉乃 散飛見乍 親 吾者不念  草枕 客乎便宜常 思乍 公将有跡 安蘇〃二破 且者雖知  之加須我仁 黙然得不在者 吾背子之 徃乃萬〃 将追跡者 千遍雖念  手弱女 吾身之有者 道守之 将問答乎 言将遣 為便乎不知跡  立而爪衝

     神龜元年甲子の冬の十月に 紀伊國にいでます時に 従駕の人に贈らむために 娘子に誂へらえて作る歌一首 并せて短歌 笠朝臣金村
おほきみの 行幸のまにま 物部の やそとものをと 出でてゆきし うるはしづまは  あまとぶや 軽の路より 玉だすき 畝火を見つつ あさもよし きぢに入り立ち  真土山 越ゆらむきみは 黄葉の 散り飛ぶ見つつ にきびにし われはおもはず  草枕 たびをよろしと 思ひつつ きみはあらむと あそそには かつは知れども  しかすがに もだもえあらねば わがせこが ゆきのまにまに 追はむとは ちたびおもへど  たわやめの 吾が身にしあれば 道守の 問はむ答へを 言ひやらむ すべを知らにと たちてつまづく

     反歌
後居而 戀乍不有者 木國乃 妹背乃山尓 有益物乎

     反歌
おくれゐて 恋ひつつあらずは きのくにの 妹背の山に あらましものを

吾背子之 跡履求 追去者 木乃關守伊 将留鴨

わがせこが あとふみ求め 追ひゆかば きの関守い 留めてむかも

     二年乙丑の春の三月に 三香の原の離宮にいでます時に 娘子を得て作る歌一首 并せて短歌 笠朝臣金村
三香乃原 客之屋取尓 珠桙乃 道能去相尓 天雲之 外耳見管 言将問 縁乃無者  情耳 咽乍有尓 天地 神祇辞因而 敷細乃 衣手易而 自妻跡 憑有今夜 秋夜之 百夜乃長 有与宿鴨

     二年乙丑春三月幸三香原離宮之時得娘子作歌一首 并短歌 笠朝臣金村
三香の原 たびのやどりに たまほこの 道のゆきあひに あまくもの よそのみ見つつ 言問はむ よしのなければ  こころのみ むせつつあるに あめつちの 神ことよせて しきたへの 衣手かへて おのづまと たのめるこよひ 秋の夜の ももよの長さ ありこせぬかも

     反歌
天雲之 外従見 吾妹兒尓 心毛身副 縁西鬼尾

     反歌
あまぐもの よそに見しより わぎもこに 心も身さへ よりにしものを

今夜之 早開者 為便乎無三 秋百夜乎 願鶴鴨

こよひの 早くあくれば すべをなみ 秋のももよを 願ひつるかも

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