春雪にしばらくありぬ松の影
春雷にお能始まる御殿かな
門を出づれば東風吹き送る山遠し
春山や松に隠れて田一枚
春山や家根ふきかへる御ん社
春山や岩の上這う山歸來
稚子達に山笑ふ窓を開きけり
大釜に春水落す筧かな
真菰生えて春水到ること早し
静さに堪へで田螺の移りけり
田螺売る津守の里の小家かな
揚げ土に陽炎を吐く田螺かな
戸を開けて田螺の國の静さよ
山の日のきらきら落ちぬ春の川
春川の日暮れんとする水嵩かな
春川や橋くぐらんとする帆掛舟
春川に舟新しき鵜飼かな
日落ちて海山遠し帰る雁
雁金の帰り尽して闇夜かな
虎渓山の僧まゐりたる彼岸かな
遠山に暖き里見えにけり
暖く西日に住めり小舎の者
暖や馬つながれて立眠り