和歌と俳句

村上鬼城

春雪にしばらくありぬ松の影

春雷にお能始まる御殿かな

門を出づれば東風吹き送る山遠し

春山や松に隠れて田一枚

春山や家根ふきかへる御ん社

春山や岩の上這う山歸來

稚子達に山笑ふ窓を開きけり

大釜に春水落す筧かな

真菰生えて春水到ること早し

静さに堪へで田螺の移りけり

田螺売る津守の里の小家かな

揚げ土に陽炎を吐く田螺かな

戸を開けて田螺の國の静さよ

山の日のきらきら落ちぬ春の川

春川の日暮れんとする水嵩かな

春川や橋くぐらんとする帆掛舟

春川に舟新しき鵜飼かな

日落ちて海山遠し帰る雁

雁金の帰り尽して闇夜かな

虎渓山の僧まゐりたる彼岸かな

遠山に暖き里見えにけり

暖く西日に住めり小舎の者

暖や馬つながれて立眠り