和歌と俳句

山口誓子

晩刻

大寺に又くりかへす法師蝉

きりぎりすこの家刻刻古びつつ

月下にて漁り火のみは紅を帯ぶ

月光の中じゆんじゆんと時計鳴る

尾をねぶるまで蜻蛉を子は愛す

法師蝉正しき声の重なれり

夕焼けて西の十万億土透く

電車の燈稲架隠ること繰返す

われありと思ふ鳴き過ぐるたび

もみぢばの流れ来りて河口出づ

堪へがたし稲穂しづまるゆふぐれは

石榴の実一粒だにも惜しみ食ふ

身辺に割けざる石榴置きて愛づ

食卓にあり食べられぬ烏瓜

踏切を過ぎて再び枯野をとめ

一目見て主峰なること雪も濃し

雪嶺の名をみな知らずして眺む

胼の妻時計のネヂも捲きがたし

雪嶺を雪なき伊勢にゐて眺む

わが家のいづこか除夜の釘をうつ