大寺に又くりかへす法師蝉
きりぎりすこの家刻刻古びつつ
月下にて漁り火のみは紅を帯ぶ
月光の中じゆんじゆんと時計鳴る
尾をねぶるまで蜻蛉を子は愛す
法師蝉正しき声の重なれり
夕焼けて西の十万億土透く
電車の燈稲架隠ること繰返す
われありと思ふ鵙鳴き過ぐるたび
もみぢばの流れ来りて河口出づ
堪へがたし稲穂しづまるゆふぐれは
石榴の実一粒だにも惜しみ食ふ
身辺に割けざる石榴置きて愛づ
食卓にあり食べられぬ烏瓜
踏切を過ぎて再び枯野をとめ
一目見て主峰なること雪も濃し
雪嶺の名をみな知らずして眺む
胼の妻時計のネヂも捲きがたし
雪嶺を雪なき伊勢にゐて眺む
わが家のいづこか除夜の釘をうつ