和歌と俳句

藤原定家

さみだれの なごりの月も ほのぼのと 里なれやらぬ ほととぎすかな

この暮を 夏とはたれか いはゐ汲む 松かげはらふ やまおろしのかぜ

雪とのみ 落つるしらあわに 夏きえて 秋をもこゆる のいはなみ

夏ごろも 秋だにたたぬ 神無月 ゐせきのなみの いそぐしぐれに

さみだれの ふるの神杉 過ぎがてに こたかくなのる ほととぎすかな

門田ふく ほむけの風の よるよるは 月ぞいなばの 秋をかりける

下くぐる 水よりかよふ 風のおとに 秋にもあらぬ あきのゆふぐれ

たかせ舟 下す夜川の みなれざを とりあへずあくる ころの月影

すまのうら もしほのまくら とふほたる かりねの夢路 侘ぶとつげこせ

松かげや 外山をこむる かきねより 夏のこなたに かよふ秋風

たがために 濡れつつしひて ほととぎす ふるにもあめの 山路わくらむ

こひすとや なれもいぶきの ほととぎす あらはに燃ゆと みゆる山路に

あらたまの 年あるみよの 秋かけて とるや早苗に けふもくれつつ

ほととぎす たがしののめを 音に立てて 山のしづくに はねしをるらむ

なつはつる みそぎにちかき 川かぜに いはなみたかく かくるしらゆふ

続後撰集・夏
なきぬなり ゆふつげ鳥の しだり尾の おのれにも似ぬ よはの短さ

ほととぎす いづるあなしの やまかづら いまやさとびと かけて待つらむ

かりねせし たまえのあしに みがくれて 秋のとなりの かぜぞすずしき