和歌と俳句

万葉集

巻第一

   太上天皇幸于難波宮時歌

   太上天皇 難波の宮に幸す時の歌

大伴乃高師能濱乃松之根乎枕宿杼家之所偲由 
    右一首置始東人

大伴の高石の濱の松が根を枕き寝れど家し偲はゆ

旅尓之而物戀之伎尓鶴之鴨毛不所聞有世者孤悲而死萬思  
    右一首高安大嶋

旅にしてもの恋しきに鶴が音も聞こえずありせば恋ひて死なまし

大伴乃美津能濱尓有忘貝家尓有妹乎忘而念哉  
    右一首身人部王

大伴の御津の濱にある忘れ貝家にある妹を忘れて思へや

草枕客去君跡知麻世婆岸之埴布尓仁實播散麻思呼  
    右一首清江娘子進長皇子

草枕旅行く君と知らませば岸の埴生ににほはさましを
  右の一首は清江娘子 長皇子にたてまつる

   太上天皇幸于吉野宮時高市連黒人作歌  
倭尓者鳴而歟来良武呼皃鳥象乃中山呼曾越奈流

   太上天皇、吉野の宮に幸す時に、高市連黒人が作る歌
大和には鳴きてか来らむ呼子鳥象の中山呼びぞ越ゆなる

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