和銅五年壬子夏四月遣長田王子伊勢斎宮時山邊御井作歌
和銅五年壬子の夏の四月に、長田王を伊勢の斎宮に遣はす時に、山辺の御井にして作る歌。
山邊乃御井乎見我弖利神風乃伊勢處女等相見鶴鴨
山辺の御井を見がてり神風の伊勢娘子ども相見つるかも
浦佐夫流情佐麻袮之久堅乃天之四具礼能流相見武
うらさぶる心さまねし久方の天のしぐれの流れ合ふ見れば
海底奥津白浪立田山何時鹿越奈武妹之當見武
海の底沖つ白波竜田山いつか越なむ妹があたり見む
右二首今案不似御井所作 若疑當時誦之古歌歟
右二首は、今案ふるに、御井にして作るところに似ず。けだし、その時に誦む古歌か。
寧楽宮
長皇子與志貴皇子於佐紀倶宴歌
秋去者今毛見如妻戀尓鹿将鳴山曾高野原之宇倍
右一首長皇子
長皇子 志貴皇子と佐紀の宮にしてともに宴する歌
秋さらば今も見るごと妻恋ひに鹿鳴かむ山ぞ高野原の上