和歌と俳句

万葉集

巻第二

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   柿本朝臣人麻呂献泊瀬部皇女忍坂部皇子歌一首并短歌

柿本朝臣人麻呂、泊瀬部皇女と忍坂部皇子とに献る歌一首、併せて短歌

飛鳥 明日香乃河之 上瀬尓 生玉藻者  下瀬尓 流觸経 玉藻成 彼依此依  靡相之 嬬乃命乃 多田名附 柔膚尚乎  劔刀 於身副不寐者 烏玉乃 夜床母荒良無  所虚故 名具鮫兼天 氣田敷藻 相屋常念而  玉垂乃 越能大野之 旦露尓 玉裳者■打  夕霧尓 衣者沾而 草枕 旅宿鴨為留 不相君故

飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 生ふる玉藻は  下つ瀬に 流れ触らばふ 玉藻なす か寄りかく寄り  なびかひし 夫の命の たたなづく 柔膚すらを  剣大刀 身に副へ寝ねば ぬばたまの 夜床も荒るらむ  そこ故に 慰めかねて けだしくも 逢ふやと思ひて  玉垂の 越智の大野の 朝露に 玉裳はひづち  夕霧に 衣は濡れて 草枕 旅寝かもする 逢はぬ君故

   反歌 
敷妙乃袖易之君玉垂之越野過去亦毛将相八方  一云乎知野尓過奴
    右或本曰 葬河嶋皇子越智野之時献泊瀬部皇女歌也 日本紀云 朱鳥五年辛卯秋九月己巳朔丁丑浄大参皇子川嶋薨

しきたへの袖かへし君玉垂の越智野過ぎ行く又も逢はめやも(一云越智野に過ぎぬ)
右は、或本に曰く、河嶋皇子を越智野に葬りし時に、泊瀬部皇女に献る歌なり、といふ。 日本紀には、朱鳥五年辛卯の秋の九月己巳の朔の丁丑に、浄大参皇子川嶋薨ず、といふ。