和歌と俳句

万葉集

巻第二

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   柿本朝臣人麻呂在石見國臨死時自傷作歌一首
鴨山之磐根之巻有吾乎鴨不知等妹之待乍将有

柿本朝臣人麻呂、石見の国に在りて死に臨む時に、自ら傷みて作る歌一首
鴨山の岩根しまける我をかも知らにと妹が待ちつつあるらむ

   柿本朝臣人麻呂死時妻依羅娘子作歌二首

柿本朝臣人麻呂が死にし時に、妻依羅娘子が作る歌二首

且今日〃〃〃吾待君者石水之貝尓交而有登不言八方

今日今日と我が待つ君は石川の貝に交りてありといはずやも

直相者相不勝石川尓雲立渡礼見乍将偲

直に逢はば逢ひかつましじ石川に雲立ち渡れ見つつ偲はむ

   丹比真人擬柿本朝臣人麻呂之意報歌一首
荒浪尓縁来玉乎枕尓置吾此間有跡誰将告

丹比真人、柿本朝臣人麻呂が意に擬へて報ふる歌一首
荒波に寄り来る玉を枕に置き我ここにありと誰か告げけむ

   或本歌曰

天離夷之荒野尓君乎置而念乍有者生刀毛無
    右一首歌作者未詳 但古本以此歌載於此次也

天離る鄙の荒野に君を置きて思ひつつあれば生けるともなし
右の一首の歌は、作者未詳。 但し、古本この歌をてもちてこの次に載す。