和歌と俳句

万葉集

巻第二

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寧楽宮

   和銅四年歳次辛亥河邊宮人 姫嶋松原見嬢子屍悲嘆作歌二首

和銅四年歳次辛亥に河邊宮人、姫島の松原にて娘子の屍を見て悲嘆して作る歌二首

妹之名者千代尓将流姫嶋之子松之末尓蘿生萬代尓

妹が名は千代に流れむ姫島の小松がうれに苔生すまでに

難波方塩干勿有曽祢沈之妹之光儀乎見巻苦流思母

難波潟潮干なありそね沈みにし妹が姿を見まく苦しも

   霊亀元年歳次乙卯秋九月志貴親王薨時作歌一首并短歌

霊亀元年歳次乙卯の秋九月に、志貴親王の薨ぜし時に作る歌一首并せて短歌

梓弓 手取持而 大夫之 得物矢手挾  立向 高圓山尓 春野焼 野火登見左右  燎火乎 何如問者 玉桙之 道来人乃  泣涙 @ A尓落者 白妙之 衣B漬而  立留 吾尓語久 何鴨 本名C  聞者 泣耳師所哭 語者 心曽痛  天皇之 神之御子之 御駕之 手火之光曽  幾許照而有

梓弓 手に取り持ちて ますらをの さつ矢手挾み 立ち向かふ 高円山に 春野焼く 野火と見るまで 燃ゆる火を 何かと問へば 玉桙の 道来る人の 泣く涙 こさめに降れば 白たへの 衣ひづちて 立ち留まり 我に語らく なにしかも もとなとぶらふ 聞けば 音のみし泣かゆ 語れば 心そ痛き 天皇の 神の皇子の 出でましの 手火の光ぞ ここだ照りたる

   短歌二首

高圓之野邊秋芽子徒開香将散見人無尓

高円の野辺の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに

御笠山野邊徃道者己伎太雲繁荒有可久尓有勿國
    右歌笠朝臣金村歌集出

三笠山野辺行く道はこきだくも繁く荒れたるか久にあらなくに
    右の歌は、笠朝臣金村が歌集に出づ

   或本歌曰

高圓之野邊乃秋芽子勿散祢君之形見尓見管思奴播武

高円の野辺の秋萩な散りそね君が形見に見つつ偲はむ

三笠山野邊従遊久道己伎太久母荒尓計類鴨久尓有名國

三笠山野辺ゆ行く道こきだくも荒れにけるかも久にあらなくに