和歌と俳句

万葉集

巻第三

挽歌

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     神龜五年戊辰大宰帥大伴卿思戀故人歌三首
愛 人之纒而師 敷細之 吾手枕乎 纒人将有哉
      右一首別去而経數旬作歌

     神亀五年戊辰に 大宰帥大伴卿 故人を思ひ恋ふる歌三首
うつくしき 人のまきてし しきたへの 吾が手枕を まく人あらめや
      右の一首は 別れ去にて数旬を経て作る歌

應還 時者成来 京師尓而 誰手本乎可 吾将枕

かへるべく 時はなりけり みやこにて 誰がたもとをか 吾が枕かむ

在京 荒有家尓 一宿者 益旅而 可辛苦
      右二首臨近向京之時作歌

みやこなる 荒れたる家に ひとり寝ば 旅にまさりて 苦しかるべし
      みぎの二首は 京に向ふ時に近づきてる作歌

     神龜六年己巳左大臣長屋王賜死之後倉橋部女王作歌一首
大皇之 命恐 大荒城乃 時尓波不有跡 雲隠座

     神亀六年己巳に 左大臣長屋王 死を賜はりし時に 倉橋部女王が作る歌一首
おほきみの みことかしこみ おほあらきの 時にはあらねど 雲隠ります

     悲傷膳部王歌一首
世間者 空物跡 将有登曽 此照月者 満闕為家流
      右一首作者未詳

     膳部王を悲しぶる歌一首
世の中は 空しきものと あらむとぞ この照る月は 満ち欠けしける
      右一首は 作者未だ詳らかにあらず

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