和歌と俳句

万葉集

巻第三

挽歌

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     天平元年己巳攝津國班田史生丈部龍麻呂自経死之時判官大伴宿祢三中作歌一首 并短歌
天雲之 向伏國 武士登 所云人者 皇祖 神之御門尓 外重尓 立候 内重尓 仕奉  玉葛 弥遠長 祖名文 継徃物与 母父尓 妻尓子等尓 語而 立西日従  帶乳根乃 母命者 齋忌戸乎 前坐置而 一手者 木綿取持 一手者 和細布奉 平 間幸座与  天地乃 神祇乞? 何在 歳月日香 茵花 香君之 牛留鳥 名津匝来与 立居而 待監人者  王之 命恐 押光 難波國尓 荒玉之 年経左右二 白栲 衣不干 朝夕 在鶴公者 何方尓  念座可 欝蝉乃 惜此世乎 露霜 置而徃監 時尓不在之天

     天平元年己巳に 摂津の国の班田の史生丈部龍麻呂 自ら経るきて死にし時に 判官大伴宿祢三中が作る歌一首 并せて短歌
天雲の むかぶす国の もののふと 云はれし人は すめろきの 神の御門に 外のへに 立ちさもらひ 内のへに 仕へまつりて  玉葛 いや遠長く おやの名も 継ぎゆくものと 母父に 妻に子どもに 語らひて 立ちにし日より  たらちねの 母のみことは いはひべを 前にすゑ置きて かた手には 木綿取り持ち かた手には にぎたへまつり 平けく ま幸くいませと  あめつちの 神をこひのみ いかにあらむ 歳月日にか つつじ花 にほへる君が にほ鳥の なづさひ来むと 立ちて居て 待ちけむ人は  大君の みことかしこみ おしてる 難波の国に あらたまの 年経までに 白栲の 衣も干さず 朝夕に ありつる君は いかさまに  おもひいませか うつせみの 惜しきこの世を 露霜の 置きて去にけむ 時にあらずして

     反歌
昨日社 公者在然 不思尓 濱松之於 雲棚引

きのふこそ 君はありしか 思はぬに 浜松がうへに 雲にたなびく

何時然跡 待牟妹尓 玉梓乃 事太尓不告 徃公鴨

いつしかと 待つらむ妹に たまづさの ことだに告げず いにしきみかも

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