和歌と俳句

大橋櫻坡子

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朝焼や帆柱飾見えわたり

競漕の夕しら波となりにけり

花衣ひきずりはなす電話かな

山潰えの土とゞめ咲く躑躅かな

大巌のふるきにほひや清水吸ふ

渡御の舟風雨の中にかしこさよ

秋立つや山陰ふかき伊賀の畠

おかしさや洗ひ障子にやぶじらみ/p>

たそがれや庵の四方田の落し水

初猟の第一発のこだまかな

御手洗や凍りつきたる杓の数

あまり寝る火燵の祖母をのぞきけり

初荷曳雪にまろびてにぎはしや

草に臥て読む書まばゆし蝶の春

かぎりなく夕映かはる新樹かな

甲板や島の青田の真近なる

蜻蛉のみな溯る晒布かな

水打つや山影きたる街の中

山門に童の声や書を曝す

朝焼や詣で戻りも汀ぞひ

今朝秋の杉のもとなる鼓楼かな

燈籠の灯をつくろひて寝るとせん

きざはしに長尾垂れたる燈籠かな

御障子に蜻蛉翅擦る静かなり

月明し門扉の彫の鳥けもの

朝げむり立ちにぎはへり出水村

遊園や萩のほそみち水づくあり

雪硬くなりたる上の落葉かな

土手うらに千鳥あがりし枯野かな

道の上に家を建てゐる枯野かな

朝の間の親山影や山始

日のくれの雪掻かれありかるた宿

歌がるた一枚失せて年を経ぬ

啓蟄や庭と畠とけじめなき

井に遊ぶ島の童や落椿

山の上は陵守ひとり百千鳥

夜桜に顔衝きあうて出逢ひけり

陋巷や障子のすその春の泥

裏沼を桑舟漕げる蚕飼かな

俄かなる喪に籠りつゝ蚕飼かな

桑摘や置き提灯に暈うまる

幟上げて陵の守部の出づるなり

毛虫焼く白き額の夫子かな

海かけて気比の松原虹立てり

塵とりにすこしかゝりて蟻のみち

老鶯や萱の中なる薪の棚

黴拭きて古き瓢をいつくしむ

喪の家のこそりともせず路地すゞみ

神垣をはゞかり通る夜振かな

下闇や大いなる蛾の幹うつり

避暑の子等圃の百合を荒しけり

寝し家の簾を染むる花火かな

坊の傘借りてさまよふ雨月かな

ははそはの母の夜長のものがたり

遊園の人こぬ径の囮かな

稲雀湖の迫わたり来るなり

葛城の神に仕へて火燵かな

住友の塀に飽きたる夜番かな

墨古りて屏風の富士のほのかなり