和歌と俳句

大橋櫻坡子

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霧いよゝ迅く流るゝさるをがせ

身の丈の蕗の中行く恐ろしき

大夏野越えて到りし湖畔かな

秋晴に仔馬を連れて荷馬かな

浜の秋艪をかつぎ馬曳いてゆく

分かたれて鱈も一山できにけり

をゆく鮪の馬車に会ふばかり

馬がゐて草刈女をりにけり

また山が遠くなりゆく花野かな

流木のくつがへりをり出水あと

秋耕の馬に銃創ありにけり

秋耕の馬たくましや石狩野

秋風やなほ旅をしてみちのくに

秋晴や馬つれ詣る馬の神

二三日東京にゐて震災忌

庭下駄をみな履いて萩がくれゆく

萩のみち行き交ひ隔てなき人等

恵那に雪吊柿あまくなりにけり

海面のけふは高しや冬構

凍金魚顔に水垢をまとひたる

水垢の中に眼じろぎ凍金魚

煤掃の一番竈燃えにけり

煤掃のころがり出でし法鼓かな

煤すみてうち鎖されし諸仏かな

町川に橇を洗へる雪解かな

軒ごとに毛皮干しある雪解かな

桑の芽になほとぶ雪や奥近江

降る雪に卒業写真撮りにゆきし

沢にして迅き春水の流れけり

古庭に月のさしゐる雛の宵

ちらちらと鶯来をり雛納

つばくらに伊賀の上野は城造り

吹きあがる幕の裾より花ふゞき

玉垣に来て潮の香や花ゆふべ

夾竹桃陋巷の夏はじまりぬ

南風や蓬髪の火夫舷梯に

避暑の坊訪うてゆあみにあづかりぬ

なんばんの髯のふまるゝ祭かな

草干すや母屋つゞきの大馬屋

鱚の海紺が紫紺にかはりけり

舸子呼べば来る海鳥や沖膾

朝夕のすゞしくなりてけふ忌日

南風に球場鳩を放つところ

塁を獲し熱砂のけむりあがりたれ

灼け砂にまろびて珠を獲しところ

鉄傘の大つばさ影青き芝

夕焼の空のサイレン野球果つ

ふるさとの桑山のぼる墓参かな

白雨あと桑の香つよき墓参かな

学び舎にのがれ来しまゝけふの月

打ちあげし船も寝まりぬけふの月

流材のふさぐ戸口や水見舞

打ちあげし船あひを行き水見舞

秋晴や昨日の津浪の海蒼く

炉のへりの盃あつし小鳥焼く

串かへす手の羽まみれや小鳥焼く

雲来るや葡萄の丘のかなたより

菊日和羽織をぬいで縁に腰

白菊の菊人形の尊かな

手水にも温泉ひきあり紅葉宿