三人の母となりたる木葉髪
朝焼の雲うすれつゝ田鶴わたる
群らだちし田鶴やうやくに棹づくり
きらきらとしぐれくるなり田鶴の宿
くわうと鳴きくるると鳴きて田鶴舞へり
田鶴ひとつおくれて渡る御空かな
旅人や丘のぼりきて田鶴の墓
熊の皮かへせば銃の傷ひとつ
毛皮着て昼を寝しづみ雪の汽車
ふゞきこむ壁に吊りある毛皮かな
雪の道黄によごれきて村ちかし
雪げむりあがりしかたに雉子翔ちぬ
雪折の松に鴨ゐる御陵かな
大ぜいの子に負はせ来る年木かな
石垣のあひを負ひくる年木かな
福頭巾着て大耳のたほるゝよ
寒復習障子硝子に雪降つて
住吉に歌の神あり初詣
藪入を追ひ越しもして中辺路を
藪入のはやゆふぐれの小家かな
船造る音のはやあり羽子の町
宝恵駕やうちはづさるゝ総格子
網代木に波逆まける雪解かな
田の水に鳰の水尾ある雪解かな
船暈の負はれ下りくる遍路かな
石段をけぶらす茶屋や山ざくら
花すぎし雪洞ならぶ築土かな
夜葬通りしあとの桑を摘む
うらゝかや貝に男郎花をみなへし
うらゝかや貝の親子の似もつかず
西の日の藤にかかりて美しき
燕や石段欠けて舟着場
空に無く菖蒲の上に雨の糸
釈迦堂の空を北すやほととぎす
神宮の菖蒲見てあり誕生日
睡蓮の花を木の間のみちをとる
吹きぬけし竹の落葉やひるねざめ
遠くまで出でて水打つ茶店かな
はしり出て蛍を追ふや茶屋の客
夕焼けて帰鴉はてしなき屋島かな
明易や八十三の母刀自に
端居する間も仏恩を申さるゝ
手をひかれ屏風見あるく祭かな
幕裾に打水桶や祭宿
柱にも巻きし錦や祭宿
おととひの祭の扇かゝる堰
母刀自も知れるわが句や星まつり
燈籠に対へる顔や暗きより
石垣にあたりし傘や秋の雨
秋雨や村人駅の時計見に
徳川の邸つゞきの虫の宿
遠くよりとびくる蝶や花芙蓉
手をやりていただきぬくき鶏頭かな
膝がしらたゝいて酔へる新酒かな
母刀自は褥の上に十三夜
軒端より起れる恵那や柿を干す
夕紅葉わが曳く杖の石に鳴り
飼猿のゆすぶる襖紅葉茶屋
塵斗にとりし紅葉を吹きちらし
駅寒く梳りをり登校児