和歌と俳句

種田山頭火

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おもふことなく枯木をひろひあるきつつ

茶の花のちりしくところ寒菊の花

こちらがあゆめばあちらもうごく小春雲

すゝきをばながほほけたままに住みなれた

ゆふ月が、百舌鳥はまだ暮れない

冬夜いつのまに豚をぬすまれた

年くれぬ笠きて草鞋はきながら

冬ごもりまたよりそはむこの柱

冬夜さめてはおもひでの香煎をすゝります

お粥のあたゝかさ味の素一さじ二さじ

噛みしめる味はひも抜けさうな歯で

更けてひそかに竹の葉の鳴る

枯草うごくと白い犬

日ざしあたゝかな草の実の赤い

さうぼうとしてゆふけむる月と人

小春日和の幟立ててこの里はおまつり

竹のよろしさは朝風のしづくしつつ

あたたかくあるけば草の実つづく

このみちの雑草の中あたたかうたどる

まことに小春日の、並んでゆくかげの

山しづかにして咲いてるもの

小春なごやかな屋根をつくらふ

小春日和の豆腐屋の笛がもうおひるどき

おしつこさせる陽がまとも

人も藁塚もならんであたたか

落葉が鳴るだらう足音を待つてゐる

建ていそぐ大工の音が遠く師走の月あかり

冬ごもり袂ぐさもこんなにも

空のあをさへ枯れておちない葉のさわぐ

仕事しまうて今年もをはりの柿をもぐなど

昼月ほのかに一ひらの雲かげもとゞめない

ゆふ闇のたゞよへば楢の枯葉のしきりに鳴れば

ねむれない夜の鶏はなけども明けない凩

うとうとすれば健が見舞うてくれた夢

お祥忌の鐘が鳴り耕やす手を休め

冬空ちかく爆音の脅威

けふはお嬢さんで白いショールで

日照雨ふる朝からぽんぽん鉄砲をうつ

晴れさうな竹の葉の露したたる

麦まきもすんだところでお寺まゐりのおしろい塗つて

鋪装道路の直線が山へ、もみづる山山

師走しぐれては月あかり

ハガキ一枚持つて月のあるポストまで

あるくともなくあるいてきて落葉する山

きらきらひかつて売り買ひされるよう肥えた魚

孫の手をひきお寺まゐりのさげてゐるはお米

月からこぼれて師走の雨のぬくい音

触れると散るまへの櫨紅葉かな

其中一人にして冬ごもり

小春日のさせば障子をあるく虫かげ

凩の、大きな日の丸がはためく

こんなにも弱つてしまつた落葉ふむさへ

早う寝るとして寒月ののぼるところ

生きてゐることがうれしい水をくむ

こんなに痩せてくる手をあはせても

ことしも暮れるお墓を掃除する

けふはよばれてゆきますガソリンカーで

年の市のお猿さんやたらに踊らされてゐる

こゝろなぐさまずこゝまで来たが冬されの水

わいてたたへてあふれる湯の惜しむところなく

ぼんやり観てゐる冬山のかさなれるかたち