和歌と俳句

種田山頭火

前のページ<>次のページ

こんなところに師走いそがしい家が建つ

枯れつくして芭蕉葉は鳴る夜の片隅

遠く鳥のわたりゆくすがたを見おくる

寝しな水のむ山の端に星一つ

あすはお正月の御飯をあたゝめてひとり

しとしとしぐれる笹のさらさら

電燈一つが長い廊下が

年わすれの酒盃へ蠅もきてとまる

ことしもをはりの宿直室でラヂオドラマが泣きだした

年のをはりの風が出て木の葉ふきおとした

きずがそのままあかぎれとなり冬籠る

豆腐屋の笛が、郵便もくるころの落葉

お正月の、投げざしの水仙ひらいた

むかへられてすはれば寒菊のしろさ

ふと眼がさめて枯草の鳴るはしぐれてゐるか

考へるともなく考へてゐたしぐれてゐた

藪はしぐれる郵便受函が新らしい

雨がぬくすぎる師走のかみなり

山から夜風がごうときて窓をうつ年の暮

昭和九年もこれぎりのカレンダー一枚

雑草霽れてきて今日はお正月

草へ元旦の馬を放していつた

霽れて元日の水がたたへていつぱい

けふは休業の犬が寝そべつてゐる元日

椿おちてゐるあほげば咲いてゐる

元日の藪椿ぽつちり赤く

藪からひよいと日の丸をかかげてお正月

お宮の梅のいちはやく咲いて一月一日

空地があつて日が照つて正月のあそび

お正月のあつい湯があふれます

噛みしめる五十四年の餅である

こゝのあるじとならう水仙さいた

こゝに舫うてお正月する舳をならべ

霜へちんぽこからいさましく

霜晴れの梅がちらほらと人かげ

耕やすほどに日がのぼり氷がとける

足音、それはしたしい落葉鳴らして

みんないんでしまへばとつぷりと暮れる冬木

ふけてひとりの水のうまさを腹いつぱい

落葉あたゝかう踏みならしつゝおわかれ

おわかれの顔も山もカメラにおさめてしまつた

おわかれの酒のんで枯草に寝ころんで

甘いもの辛いものあるだけたべてひとり

枯草を焼く音の晴れてくる空

枯木に鴉が、お正月もすみました

送電塔が、枯れつくしたる草

私の懐疑がけふも枯草の上

時間、空間、この木ここに枯れた