和歌と俳句

山口誓子

炎昼

冬の航荒れたり硝子みなよごれ

雪の島島となり陸と離れたり

煖房車闇に前燈をぎらつかす

春苑に七面鳥啼きひと死せり

雪やなぎ苑をしろくしひと死せり

水上機苜蓿しろき埼をゆく

拡声器青き馬場に声惜しまず

夏の馬場黄なる竿旗を柵に寄す

白き波海渚にあがり夏の馬場

五月或る日犯人護送馬車に遇ふ

夏が来ぬ新聞を刷る地下鳴れり

水上機夏の日輪を濡れて過ぐ

飛行服よごれ夏日に見るべからず

潮灼けて舵輪を白く艫に曝す

鼻隆く夏天を翔けて降り来たる

夏天降り白き煙草を口に啣ふ

プロペラのすでに激せり南風に向き

風除の一枚の硝子南風を翔くる

南風に降り著水の飛沫みじかけれ

南風に著き浮舟白く崎に触る

雷起り門に激浪の衰ふる

雲を被て雲に雪渓を垂らしたり

青き野に翼尾の橇を触れしむる

機の翼と前輪青き野に弾む

青き野に降りて機翼をなほすすむ

青き野に降りてプロペラなほ熱る

滑走路撓みて夏の野に青し

門を落ちて夏涛白く南せる

夏涛に軸艪揺れつつ門をすすむ

夏涛の激ち鉄船門にとまる

樫の蠅油彩の碧き海にとまる

青樫のほとり馬道青く通ず

龍骨の粗木を立たしめ黄なり

黄なり屋に竜骨の聳え立ち

船造る鉄尺を地に黄なり