夕陰や蕃茄の花も黄に浮ける
妻なりき倒れしトマト起し居るは
夕月に七月の蝶のぼりけり
外郎餅を皿に真午の若葉かな
楚楚として盈盈として庵若葉
垂るる葉の上へ立つ葉も総若葉
静かさに哀れなほどの若葉かな
鶏卵を茹でて若葉の庵かな
若葉風百苦茶に枝葉吹きまくり
夜の若葉花の如くに見ゆるかな
西の窓今日開きたる翠微かな
懐しき奈良とも思ひ利茶かな
明け暮れの炊煙夏を空しうす
短夜の心もとなき嵐かな
真夜中の梟鳴きぬ梅雨の入
梅の実の檐に大きく五月雨るる
実にも葉にも個々に陰もち窓の梅
蜘蛛の糸に病葉かかりくるくると
遠燕蜘蛛の営み見てあれば
蜘蛛消えて只大空の相模灘
高松の幹動かせて青嵐
夏至の日の幽かに聴こゆ馬の鈴
庵の草木繁り尽して居りにけり
草も木も繁りつくして静かかな