和歌と俳句

水原秋櫻子

年祝ぐや椿朱塗の椀のもの

打出の獅子のきほひや初芝居

柚釜戴せおのれ寂びけり織部焼

白魚を煮る酒の香や細雪

白魚に添ひて早蕨なほ細し

風立てば辻の花市春みだれ

春一番武蔵野の池波あげて

古雛は着ぶくれたまふ佳かりけり

立雛は夜の真闇にも立ちつづく

旅の夜の茶のたのしさや櫻餅

椿餅食ふや鏡葉うらおもて

日照雨降り山茱萸のみに降る如し

初蝶のいで来し庭の廃れやう

懐炉まだ効く疲れ寝や春の雨

母子草人の見やらぬ春闌けて

吉野葛溶くや冷えこむ彼岸過

蜻蛉うまれつばさひかりを得つつあり

蜻蛉うまれ緑眼煌とすぎゆけり

練供養春日輪も歩をとどめ

稚子の列蝶がみちびき蝶が追ふ

太子像輿もうららに練りたまふ

花万朶二躯の獅子王も従へり

花吹雪中宮寺さまを吹きとどめ

百千鳥舞楽も奏しはじめけり

塔よりの散華舞ひ落つ舞楽壇