和歌と俳句

星野立子

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写生子の百合の斑点塗つてをる

いつの間に母らしきわれ夏休み

ソーダ水灯明かく部屋狭く

王冠の香水の瓶アベマリヤ

香水の正札瓶を透きとほり

腰かけし床几斜めであま酒屋

あま酒にこみゐし茶屋もやがてひま

洗ひ髪ひたいの汗の美しく

持ち重る茄子やトマトや水見舞

水著きてボートは真白旗は赤

鵜舟帰る鵜匠腰蓑ときながら

鉄線を生けて小暗き中二階

板橋を人行く夏の山そびえ

清流につき出し二階青簾

杉の間を音ある如く夏の蝶

退屈をまだせぬ子供浮葉見て

暑気本格鎌倉百合も咲きそめぬ

泳ぎ子に橋よりまくは瓜投ぐる

衣更へてたのしき手紙懐ろに

卯の花やうす紫の著物欲し

次の間に母ゐてたのし蚊帳の子等

宿題を早せし如く田植ゑあり

捕はれしの鳴声突然に

凌霄花に夕日まだあり水を打つ